天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜
 アマリリスはあの屋敷で生き抜くことだけを考えていた。もっとできることがなかったのかと、今更になって激しく後悔する。
 せめて家令のケヴィンに相談していたら、なにか情報が貰えていたかもしれない。災難が降りかかってきたら、ただ待つだけではダメだったのだ。

「何度もリリスに手紙を書いたんだけど返事がなかったから、きっと握りつぶされているのだと思っていたよ。それにフレデルト王国に入国することもできなくて、どうにもできなかったんだ」

 十四歳の少年がたったひとりで生きていくだけでも過酷だというのに、テオドールはアマリリスのことをずっと気にかけていた。冒険者という危険な仕事をこなしながら、なんとか日々を過ごして辺境伯の騎士団長まで上り詰めるなど並大抵のことではない。

「心細い思いをさせて悪かった」
「テオ兄様はなにひとつ悪くありません。でも、クレバリー侯爵家を守れなくてごめんなさい。私の力不足で、もうどうにもならなくて……」

 それでもテオドールはアマリリスを慮って、自分が悪いというのだ。
 ルシアンの心配りと兄からの優しい言葉で、鋼鉄のように固かったアマリリスの心が、真綿のように柔らかくふわふわと解きほぐされていく。

「いいんだ。リリスがこうして綺麗なドレスを着て、笑顔でいれば侯爵家なんて必要ない」
「テオ兄様……」

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