天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜
(——ルシアン様が、いなくなる……?)

 両親が亡くなり、すべてを失いひとりぼっちになった日がフラッシュバックする。あの時のようにルシアンも失うかもしれないと思ったら、アマリリスの胸は張り裂けそうだった。

(嫌だ、失いたくない。私は、ルシアン様を失いたくない——)

 ルシアンの強引な口付けも、嫌だなんで少しも思わなかった。きっとアマリリスのそんな気持ちを、ルシアンは見透かしていたのだろう。

 アマリリスはようやく理解した。
 ルシアンに求めらて嬉しかったのだと、翻弄されるほど心惹かれていたのだ。

 クレバリー侯爵家での日々を過ごすうちに、自分の心に蓋をすることに慣れてしまって、こんなことになるまで気が付かなかった。

 激情が宿る紫水晶の瞳に見つめられて、甘い言葉で愛を囁かれ、さりげない優しさで包み込んで、誰をも魅了する美貌に心が掻き乱される。

(私は………ルシアン様を、とっくに好きになっていた)

 ルシアンを失いたくない。その気持ちでアマリリスはいっぱいだった。


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