天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜
 アマリリスは、いまだに目を覚さないルシアンのそばに寄り添い続けている。

「ルシアン様、毒を盛った実行犯は捕まりました。いつになったら目が覚めるのですか?」

 どんなに話しかけても、返事は返ってこない。このまま目覚めなければどんどん衰弱してしまう、と医師は説明していた。ルシアンが倒れてからもう五日が経過している。

 せめて水分をとってもらいたくて、アマリリスは氷を小さく砕き少しずつルシアンの口元へ運んでいた。

「お願いです……起きてください。腹黒教育もまだ、完璧ではないですよ」

 わずかに開いた口へ小さな粒の氷を乗せると、体温ですぐに溶けて水となりルシアンの唇を濡らす。

 ルシアンへは、まだアマリリスの気持ちを伝えられていない。
 失いそうになって初めて気が付いた、ルシアンへの想いはアマリリスの胸を締めつける。

「ルシアン様。いつもみたいに私を翻弄して、ドキドキさせてください。そうじゃないと——」

 アマリリスは枕元へ手をついて、ルシアンを見下ろした。
 少し痩せてしまったルシアンだが、その美貌に陰りはない。

「私、泣いてしまいますよ」

 込み上げる想いを乗せて、アマリリスはルシアンの唇にそっと触れるだけのキスをした。

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