天才悪女は嘘を見破る〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜
 この瞬間からアマリリスはつま先から頭のてっぺんまで神経を張り巡らせ、自身の行動や仕草で与える印象を操作していく。

 すでに傲慢で最低な稀代の悪女と浸透している場合、さほど難しいことはない。貞淑な淑女の振る舞いをするだけで、そのギャップによって好印象を植え付けられる。

 わかりやすいのは(いか)つい強面の荒くれ者が、弱っている子猫を助けた時だ。見た目やイメージと反する行動をとることによって、大きな効果を生むのだ。

 嬉しそうにエスコートするルシアンの右腕にアマリリスが手を添えて会場に入ると、一斉に視線が集中する。最大の効果を出すためには、わずかなミスも許されない。

「我がフレデルトの若き獅子。本日は私の茶会へお越しいただき光栄の至りでございます。どうかゆるりとお過ごしくださいませ」
「バックマン公爵夫人、お招きいただき感謝いたします。本日は婚約者候補のアマリリスもパートナーとして連れてまいりました」

 こんな風にルシアンがアマリリスを紹介すれば、バックマン公爵夫人は無視することができない。一瞬だけ鼻に皺が寄り、上唇がピクリと動く。

 アマリリスはこの反応を見て、やはり自分を嫌悪していると実感した。貴族の鑑のようなバックマン公爵夫人はほとんど感情を顔に出さないが、無意識で出てしまう反応は隠しきれない。

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