【短】「花火を背にした少女」

完成まで残り3日





「土曜日なんだよね、一緒に行こうよ」


「ん…どこに?」


「もう、聞いてなかったの!?は・な・び!いいインスピレーションになると思うしさ、どう?」


「あー…興味ない。いま、絵描くのに忙しいから」




 青い空の下、家への帰り道を2人で並んで歩く。

 絵翔(かいと)のとなりを歩くのは、かれこれ10数年目。


 気もそぞろな幼なじみを見ると、Yシャツの上でネクタイが曲がっていることに気づいた。

 ひょいと手を伸ばして直してあげると、絵翔(かいと)は眠たげに見える垂れ目を私に向けて、自分でもネクタイに触れる。


 その手先、爪の間に残った絵の具はたしかに絵翔(かいと)が絵を描いているあかし。

 そう言われちゃったら邪魔できないけど、絵の具の色がどこか濁って見えるのは、気のせいかな。

 いつもはもっと冴えているのに。
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