【短】「花火を背にした少女」

完成まで残り1日 -絵翔視点-

Side:絵翔(かいと)


 俺には、絵を描く才能がある。

 コンクールに出せば賞を貰えるし、幼なじみの歌月理(うつり)がやっているSNSでも、反響はいいらしい。


 まぁ、描いた絵を褒められるのは素直にうれしい。

 でも俺は褒められるために絵を描くわけじゃない。

 楽しいから描いてるんだ。


 …それが。




「くそっ…こんなの違う、俺が描きたいのは、もっと…!」




 勢い任せに、今日1日かけて途中まで描いた絵を、バツ印で上書きして没にする。

 最近、筆が乗らない。

 調子が悪くなり始めたのは、ちょうど1週間前、土曜日だった。


 歌月理(うつり)に気づかれたくなくて、1人で描きたいからと家に上げなくなっても、焦りがつのるばかり。

 まだ誰にも気づかれてない。

 でも、一時的な不調はどんどん悪化して、筆を持つことすら億劫(おっくう)になって。
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