【短】「花火を背にした少女」
「ダメ。真っ暗じゃないとできないから」


「はぁ?」




 こんな暗い中でなにを描くって言うんだ。

 それに、キャンバスは。


 そう思ったあと、暗闇に目が慣れてきて、窓辺にイーゼルとキャンバスが置かれていることに気づいた。

 窓はカーテンが開かれたまま。

 月明かりを背にして描こうって言うのか?




歌月理(うつり)…」




 呆れた声が出る。

 こんな場所で描いた絵の出来なんてたかが知れてる。




絵翔(かいと)は黙って見てて」




 カチャ、と音がして歌月理(うつり)の体が浮いた。

 いや、脚立に上ったんだ。

 窓の横にあるから見えなかった。


 俺の方からイーゼルの骨格が見えるってことは、キャンバスは窓に向いてるわけだけど。

 脚立に上ったら、筆が届くわけないだろ。
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