【短】「花火を背にした少女」
 そういえば、床に差した月明かりを見せたんだっけ。

 まさか、あれを撮るつもりなのか?キャンバスを背景に?

 白いキャンバスに、月明かりが上手く映るわけないだろ。



 待つだけ時間の無駄だけど、家に帰っても描けない絵と向き合うだけだから、俺は大人しく窓の外をながめていた。

 中途半端に欠けた月が遠くに見える。




 どれくらい無音の中で待っただろう。

 暗闇の中で、月をながめて、無心になってきた頃、空にパッと光が咲いた。




 パシャパシャパシャッ




 ドォン、と音がする。

 窓の外で明るく輝く光の花が、暗い室内をパッ、パッと照らした。

 重くひびく花火の音と、乾いたシャッター音がぶつかるように鳴っている。


 ドドォン、と赤い花が咲いて、パチパチとあちこちが明滅した。

 次に上がるのは緑の花火。

 オレンジとも黄色ともつかない大輪の花は、しだれ桜のように線を引いて消えていった。
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