【短】「花火を背にした少女」
「…テーマから、考え直す?ううん、どんなテーマにしたって、私の腕じゃ…」
うつむいて目をつむる。
ため息ばかりが出るのを食い止めるように、すぅっと息を吸い込んでから、顔を上げてキャンバスに紙を添えた。
レンズ越しなら、何か別のものを思いつくかもしれない。
そう考えて、いつもの置き場所からカメラケースを持ち上げる。
丁寧にケースを外して、現れたミラーレスをそっとかまえた。
脇をしめて、画面を覗きこむ。
A4の紙に描かれた月と湖。
湖のかたわらにはこちらに背を向けて体を横たえた狼がいる。
だけど…。
「月と湖の縮尺がおかしい。狼だってフォルムが変だし、影の位置が不自然だ。そもそも湖に近すぎる…」