アラフィフ・ララバイ
ホールにつき、チケットを渡した直後のことだった。

「いててて……」

母が急にしゃがみこむ。

「どうしたの?」

すぐに駆け寄ると、母は眉間に深い皺を寄せたまま目をつむり、お腹を押さえている。

「お腹が……」

突然の腹痛。

確か、昔、尿管結石で入院したとか言ってたけれど、まさかまたそれ?

母の額には痛みのせいか冷汗がにじんでいた。

とりあえず母の体を支えて近くのベンチに座らせる。

「どこが痛いの?」

母は、下腹部を指して頷く。

やだ、どうしよう。尿管結石なら、すぐに救急車呼ばないとだめかしら。

「どうかなさいました?」

半ばパニックになっている私の背後から癒し系低音。

びっくりして、思わず体が跳ねる。

恐る恐る振り返ると、上下黒のスーツを着た、品のいい佇まいの男性が心配そうな顔をを向けていた。

年齢は40代前半くらいだろうか。

とにかく私よりは若く、旦那よりは数倍イケメンだ。

いやいや、そんな値踏みしている時間はない。

「母が腹痛を……」

「では、休憩室がございますので、一旦そちらでお休みになられて下さい。必要があれば救急車を手配いたしますので」

この人は一体だれ??

私のそんな表情を察したのか、その男性は「申し遅れました」と身なりを正し続けた。

「私はこちらのホールのレセプショニストのマネージャーをさせて頂いております冴木と申します」

レセプショニスト?
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