ファーストキスは先生と



「瀬那、人ん家の前でなにしてるんだ」



ふと背後から、
聞き覚えのある声が聞こえたと同時。



私の体は後ろに引き寄せられる形になって。



鼻に香ってくるのは、
安心する柔らかいシャボン玉の香り。



「..................っ、」



振り向かなくても分かる。



私の............〝好きな人〟だもん。



「あー、久門先生の家だったんですね、ここ」



私はとぼとぼ歩いて、
下を向いてたから気づかなかったけど。



いつの間にか、家の前に着いていたらしい。



全然気づかなかったのに..................



「じゃ、俺帰りまーす!」



そう言って、
手を振っている瀬那くんの笑顔は。



──────とてもわざとらしいものだった。


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