恋愛の醍醐味
「はい。ロボティクス株式会社です」

 爽やかで耳当たりのいい声の男が出た。

「あの、私、AIロボットのモニターをさせてもらっている者ですが」
「萌々香?」
「……え?」
「萌々香、僕だよ。瑛大だ」
「えっ? 瑛大くん!? ど、どういうこと?」
「『ロボティクス株式会社』は、僕が勤めてる会社なんだ」
「そうだったの!? え、でも……」

 萌々香は状況が理解出来ずにいた。

「まあ、ロボットを回収しに行かないといけないようだし、とりあえず萌々香の家に行ってから話すよ」

 萌々香は「わかった」と返事し、瑛大の到着を待つことにした。

 瑛大がプログラマーという職業に就いていることは知っていたが、難しそうで詳しくは聞いたことがなかった。付き合って間もない頃に会社名も聞いたはずだが、覚えていなかった。
 どうりで声に聞き覚えがあったわけだ、と納得した萌々香の頭には、瑛大の顔が浮かんでいた。そして、爽やかで耳当たりがいいと感じたことに、独り笑いした。


 一時間ほどして、瑛大がやってきた。

「弊社の最新AIロボットは、お気に召しませんでしたか?」

 瑛大はクスクス笑いながら続ける。

「萌々香みたいにワガママで気の強い女、僕以外手に負えるわけないだろうと思ってたけどね」
「え、どういうこと? だって、モニター募集って……」
「そうだよ。うちの会社でモニターを募集してたんだ。そして君を含めた数人が選ばれた」
「すごい偶然だよね」
「いや、それは……数百人の応募者の中から、僕が君の名前を見付けだしたんだ」
「えーっ!?」
「モニターバイト、君の趣味みたいなもんだっただろ? だから、きっと食い付くだろうと思ってたんだ」

 萌々香は呆気にとられていた。

「『喧嘩ばっかりで疲れた。私の気持ちなんてちっともわかってくれない。こんなんだったら、AIロボットの彼氏のほうがマシだよ』」
「え?」
「別れ際に、捨て台詞みたいに君が言った言葉だよ。すごく悔しかったんだ。それなら試してみればいいと思った」
「それでこんなことを?」
「僕は別れたくないって言ったのに、君は話し合いも拒否して勝手に僕の元を去った」
「でも瑛大君、連絡してこなくなったじゃん」
「頭に血が上ってる時に、君に何を言ったって無駄だってわかってるからだよ」

 その通りだ。

 思えば、今まで幾度となく困難を乗り越えてきた。いや、困難だったのは、彼だけだったのかもしれない。

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