婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

1.見知らぬ人

 婚約者であるガラルト様に呼び出された私は、彼の屋敷の客室に通されていた。
 部屋に入ってすぐ、その部屋には先客がいることに気付いた。しかし、その人物は知らない人である。身なりからして貴族ではあるが、このザルパード子爵家の人間ではない。

「えっと、あなたは?」
「ああ、僕はラルード・エンティリアと申します」
「エンティリア……伯爵家の?」
「ええ、恐らくそのエンティリア伯爵家です」

 私の質問に、男性はハキハキと答えてくれた。
 どうやら、彼は私より状況を理解しているらしい。なんというか、彼には少し余裕があるのだ。

「私は、アノテラ・ラーカンスと申します。ラーカンス子爵家の長女です」
「なるほど、あなたはこのザルパード子爵家の誰かと婚約関係が?」
「ええ、長男であるガラルト様と婚約しています」
「そうですか……」

 私の説明に、ラルード様は頬をかいた。
 彼は、気まずそうな顔をしている。よくわからないが、私がガラルト様と婚約していることに、何かしらの不都合でもあるのだろうか。

「先に申し上げておきますが、これからきっと良くないことが起こります」
「良くないこと?」
「ええ、僕はロナメア・セントラス伯爵令嬢と婚約しています。僕は今日、彼女にここに来るように言われたのです。話がしたいと言われてね」
「……なんですって?」

 ラルード様の説明に、私はかなり驚くことになった。
 彼がここに来た理由が、あまりにも奇妙だったからである。
 例えば、ラルード様がガラルト様の友達でここに呼ばれたということなら理解できる。しかし婚約者から、他家に呼び出されるとはどういうことなのだろうか。

「おっと、もう揃っていたか」
「あ、ガラルト様……」

 そんなことを考えている内に、部屋に見知った男性が入ってきた。
 それは婚約者のガラルト様だ。しかし彼の隣には、私の見知らぬ女性がいる。
 ただ、それが誰であるかは予想がつく。恐らく、彼女がロナメア・セントラスなのだろう。

「ラルード様、今日はわざわざありがとうございます」
「いいえ、特に問題はありませんよ、ロナメア嬢」

 ラルード様との会話によって、彼女が誰であることは確定した。
 そのロナメアが、どうして私の婚約者と一緒にここに来たのか。その理由がなんとなく理解できてきて、私は頭を抱える。

「アノテラ、とりあえず座ってくれ。今日は君に大切な話があるんだ」
「大切な話、ですか……わかりました。えっと、私はこっち側に?」
「ああ、そっち側だ」

 私は、ラルード様の隣の椅子に座った。するとその向かいに、二人が座る。
 それは、明らかに異常な状態だ。本来であれば婚約者同士が隣に座るべきだろう。
 その状況から、私は何が起こっているかを理解し始めていた。
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