婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。
10.生まれる不和(モブ視点)
アノテラとの婚約破棄は、ザルパード子爵家にとっても予想外のものだった。
これまでラーカンス子爵家と築いてきた信頼関係は一瞬で崩れ去った。ザルパード子爵家は、味方を一つ失ったのだ。
しかしながら、それでも希望はあった。息子であるガラルトが新たに婚約を結んだのは、伯爵家の令嬢であったからだ。
「今回の婚約は、色々とイレギュラーがありました。しかしながら、私はそちらと良き関係を築いていきたいと思っています」
ザルパード子爵は、目の前にいるセントラス伯爵に早口でそう言った。
自分よりも地位が上の相手に、無礼があってはならない。故にザルパード子爵は、慎重に言葉を選んでいた。
「良き関係ですか? ザルパード子爵、それは具体的にどういうものなのでしょうか?」
「どういうもの?」
「ギブアンドテイクということです。こちらがそちらに利益をもたらし、そちらもこちらに利益をもたらす。それが良き関係というものでしょう? あなた方は、こちらにどのような利益をもたらしてくれるのですか?」
「そ、それは……」
セントラス伯爵の質問に、ザルパード子爵は咄嗟に答えることができなかった。
彼は必死に考えて、答えを出そうとしていた。目の前にいる伯爵が何を持って満足するか、それを考えていたのだ。
「答えらないでしょう? なぜなら、あなたは子爵家の人間だからだ」
「え? いや、それは……」
「しかしそれで結構、こちらも文句を言うつもりはない。こちらが望んでいることは、ただ一つだ。私に逆らわないで欲しい」
「な、何を……」
セントラス伯爵は、ゆっくりと立ち上がった。
彼はそのまま、窓際に行く。外の景色を眺める彼の表情が、ザルパード子爵からは窺うことができなかった。
「上下関係をはっきりさせておきましょう。私は伯爵家の人間だ。あなたよりも地位が上……それは、理解できていますかな?」
「も、もちろんです」
「それならあなた方は、こちらに従うのが道理というものでしょう?」
「そ、そんな馬鹿なことが……」
ザルパード子爵は、そこで初めて理解した。
セントラス伯爵が、娘を使って子爵家を傀儡にしようとしているということに。
明確に地位が上であるため、舐められている。そう思ったザルパード子爵は、下手に出るのが得策ではないと考えた。
「婚約というものは、そういうものではないでしょう?」
「婚約か……しかし、今回の件はイレギュラーだ。あなたのご子息は、私の大切な娘を傷物にした。その責任を取っていただかなければならない」
「傷物? そちらのお嬢さんが、たぶらかしたの間違いではありませんか?」
一度思考が切り替わると、ぽつぽつと言葉が出てきていた。
ザルパード子爵も、心のどこかでは思っていたのだ。今回の婚約が、まったくもって不愉快なものであると。
故に、二人はぶつかることになった。二つの家に、不和が生まれてしまったのだ。
これまでラーカンス子爵家と築いてきた信頼関係は一瞬で崩れ去った。ザルパード子爵家は、味方を一つ失ったのだ。
しかしながら、それでも希望はあった。息子であるガラルトが新たに婚約を結んだのは、伯爵家の令嬢であったからだ。
「今回の婚約は、色々とイレギュラーがありました。しかしながら、私はそちらと良き関係を築いていきたいと思っています」
ザルパード子爵は、目の前にいるセントラス伯爵に早口でそう言った。
自分よりも地位が上の相手に、無礼があってはならない。故にザルパード子爵は、慎重に言葉を選んでいた。
「良き関係ですか? ザルパード子爵、それは具体的にどういうものなのでしょうか?」
「どういうもの?」
「ギブアンドテイクということです。こちらがそちらに利益をもたらし、そちらもこちらに利益をもたらす。それが良き関係というものでしょう? あなた方は、こちらにどのような利益をもたらしてくれるのですか?」
「そ、それは……」
セントラス伯爵の質問に、ザルパード子爵は咄嗟に答えることができなかった。
彼は必死に考えて、答えを出そうとしていた。目の前にいる伯爵が何を持って満足するか、それを考えていたのだ。
「答えらないでしょう? なぜなら、あなたは子爵家の人間だからだ」
「え? いや、それは……」
「しかしそれで結構、こちらも文句を言うつもりはない。こちらが望んでいることは、ただ一つだ。私に逆らわないで欲しい」
「な、何を……」
セントラス伯爵は、ゆっくりと立ち上がった。
彼はそのまま、窓際に行く。外の景色を眺める彼の表情が、ザルパード子爵からは窺うことができなかった。
「上下関係をはっきりさせておきましょう。私は伯爵家の人間だ。あなたよりも地位が上……それは、理解できていますかな?」
「も、もちろんです」
「それならあなた方は、こちらに従うのが道理というものでしょう?」
「そ、そんな馬鹿なことが……」
ザルパード子爵は、そこで初めて理解した。
セントラス伯爵が、娘を使って子爵家を傀儡にしようとしているということに。
明確に地位が上であるため、舐められている。そう思ったザルパード子爵は、下手に出るのが得策ではないと考えた。
「婚約というものは、そういうものではないでしょう?」
「婚約か……しかし、今回の件はイレギュラーだ。あなたのご子息は、私の大切な娘を傷物にした。その責任を取っていただかなければならない」
「傷物? そちらのお嬢さんが、たぶらかしたの間違いではありませんか?」
一度思考が切り替わると、ぽつぽつと言葉が出てきていた。
ザルパード子爵も、心のどこかでは思っていたのだ。今回の婚約が、まったくもって不愉快なものであると。
故に、二人はぶつかることになった。二つの家に、不和が生まれてしまったのだ。