婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。
14.降り出した雨
「……おや」
「あら? 雨、ですね……」
ラルード様と話していた私は、雨音を聞いて外を見た。
先程から少し暗くなっているとは思っていたが、どうやら本格的に降り始めてしまったらしい。
雨の勢いは、徐々に増していっている。これは帰り道が、少し心配だ。
「かなり降っていますね……」
「そうですね……帰るまでに止んでくれるといいんですけれど」
「……残念ですが、この勢いだとそれは難しいでしょうね」
「ええ」
「もしよろしかったら、こちらに泊まっていきませんか?」
「え?」
私が不安そうな顔をしていたからか、ラルード様は少し大胆な提案をしてきた。
もちろん、雨の中を移動するのはかなり辛いのでその提案自体はとてもありがたい。ただ、いきなり婚約者の家に泊まるというのは、少々気が引けてしまうのだ。
しかしながら、私は窓の外を見て確信する。この雨が今日中に止むことはないと。それなら、泊めてもらった方が賢明である気もする。
「その、本当にいいんですか?」
「ええ、もちろんです。父も母も反対しませんよ」
「すみません。それなら、お世話になります」
私はラルード様に、深く頭を下げた。
すると彼は、困惑したように首を振る。
「そんなにかしこまらないでください。僕は当然の提案をしたまでです」
「当然の提案……」
「ええ、女性が――それも婚約者が困っているというのに助けないなんて、そんなのは紳士の行動ではありませんから」
「紳士、ですか……」
ラルード様は少し遠慮がちに、それでも誇りを持って言葉を発していた。
紳士、彼はそれを目指して立ち振る舞っているのだろう。それはなんというか、とても立派なことであるように思える。
「お気遣い、感謝します。ラルード様」
「アノテラさん……いえ」
私は、彼に対して再度頭を下げた。
しかしそれはあくまで、感謝の礼だ。申し訳なさではなく、彼の気遣いへの感謝を表明するのが、この場では正しい立ち振る舞いであるような気がする。
彼が紳士であるならば、私は淑女であるべきだ。そう思って、私は自分の行動を改めた。
「……美しいですね」
「え?」
「すみません。でも、今のアノテラさんの表情は、とても美しかった。そう思ったんです……ああ、アノテラさんは、いつも美しいですけれど、ね?」
そこでラルード様は、少し頬を赤くしながらそんなことを言ってきた。
私は、彼からゆっくりと目をそらす。正直言って、すごく恥ずかしかったのだ。
ただもちろん、嬉しいとも思っていた。彼からの称賛の言葉に、私は密かに喜ぶのだった。
「あら? 雨、ですね……」
ラルード様と話していた私は、雨音を聞いて外を見た。
先程から少し暗くなっているとは思っていたが、どうやら本格的に降り始めてしまったらしい。
雨の勢いは、徐々に増していっている。これは帰り道が、少し心配だ。
「かなり降っていますね……」
「そうですね……帰るまでに止んでくれるといいんですけれど」
「……残念ですが、この勢いだとそれは難しいでしょうね」
「ええ」
「もしよろしかったら、こちらに泊まっていきませんか?」
「え?」
私が不安そうな顔をしていたからか、ラルード様は少し大胆な提案をしてきた。
もちろん、雨の中を移動するのはかなり辛いのでその提案自体はとてもありがたい。ただ、いきなり婚約者の家に泊まるというのは、少々気が引けてしまうのだ。
しかしながら、私は窓の外を見て確信する。この雨が今日中に止むことはないと。それなら、泊めてもらった方が賢明である気もする。
「その、本当にいいんですか?」
「ええ、もちろんです。父も母も反対しませんよ」
「すみません。それなら、お世話になります」
私はラルード様に、深く頭を下げた。
すると彼は、困惑したように首を振る。
「そんなにかしこまらないでください。僕は当然の提案をしたまでです」
「当然の提案……」
「ええ、女性が――それも婚約者が困っているというのに助けないなんて、そんなのは紳士の行動ではありませんから」
「紳士、ですか……」
ラルード様は少し遠慮がちに、それでも誇りを持って言葉を発していた。
紳士、彼はそれを目指して立ち振る舞っているのだろう。それはなんというか、とても立派なことであるように思える。
「お気遣い、感謝します。ラルード様」
「アノテラさん……いえ」
私は、彼に対して再度頭を下げた。
しかしそれはあくまで、感謝の礼だ。申し訳なさではなく、彼の気遣いへの感謝を表明するのが、この場では正しい立ち振る舞いであるような気がする。
彼が紳士であるならば、私は淑女であるべきだ。そう思って、私は自分の行動を改めた。
「……美しいですね」
「え?」
「すみません。でも、今のアノテラさんの表情は、とても美しかった。そう思ったんです……ああ、アノテラさんは、いつも美しいですけれど、ね?」
そこでラルード様は、少し頬を赤くしながらそんなことを言ってきた。
私は、彼からゆっくりと目をそらす。正直言って、すごく恥ずかしかったのだ。
ただもちろん、嬉しいとも思っていた。彼からの称賛の言葉に、私は密かに喜ぶのだった。