婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。
16.泊まることになって
「……はあ」
部屋に通された私は、ゆっくりとため息をついた。
雨によって、私はエンティリア伯爵家に泊まることになった。それは私にとって、かなり緊張することなのだ。
「まさか、こんなにも早く自分を試されることになるなんて思っていなかったけれど……」
当然のことながら、無礼があってはいけない。私は淑女として、この家で一夜を明かす必要があるのだ。
それはもちろん、当たり前のことを当たり前にすればいいだけではある。ただ、そう思っても不安はまったく拭えないのだ。
「まあ、こんな所で悩んでいても仕方ないわね……」
私は、意を決して部屋の外に出た。
そこには、知らない廊下が広がっている。
しかしながら、私はその廊下に見知った人達を見つけた。それは、先程会ったラルード様の弟さんと妹さんである。
「リーン様に、ルメティア様、こんな所で何をされているのですか?」
「あ、アノテラ様、こんにちは」
「ええ、こんにちは」
私が声をかけると、二人は笑顔を返してくれた。
エンティリア伯爵とよく似たその笑顔は、彼らの血を感じさせるものだった。
それにリーンの方は、ラルード様にもよく似ている。やはり兄弟なのだと、私は改めて実感していた。
「今日は、こちらにお泊りされるんですよね? せっかくですから、少しお話でもしたいと思って、こちらを訪ねてきたんです。ただ、部屋の戸をノックするかどうかを迷って……それで、ここで二人でどうするかを話し合っていたんです」
「なるほど、そういうことでしたか」
ルメティアは、私に対して二人がここにいた理由を丁寧に説明してくれた。
兄の婚約者、二人にとってそれは気になる存在であるらしい。先程から好奇心のようなものが垣間見えるので、これは恐らく興味本位の行動なのだろう。
故に部屋の前まで来て、迷っていたといった所か。迷惑じゃないかとか、色々と考えていたのかもしれない。
「もちろん、構いませんよ。えっと、どこで話しましょうか?」
「あ、それなら私の部屋まで行きましょう。生憎の雨ですから、外でのんびりお茶という訳にはいきませんからね」
「え、ええ、わかりました」
私の質問に対して、ルメティアは特に迷うこともなく即答してきた。
しかしながら、今日初めて会った私を部屋に招くなんて中々大胆な提案である。もちろん断る理由はないのだが、少々気が引けてしまう。
「アノテラ様、お気になさらないでください。ルメティアは、そういうことをあまり気にしませんから」
「え? あ、そうなのですね……」
そんな私に、リーンは小声で苦笑いしながら声をかけてくれた。
彼もこう言っているのだし、私が気にし過ぎるのも変な話だ。とりあえずここは、ルメティアの案に従うとしよう。
部屋に通された私は、ゆっくりとため息をついた。
雨によって、私はエンティリア伯爵家に泊まることになった。それは私にとって、かなり緊張することなのだ。
「まさか、こんなにも早く自分を試されることになるなんて思っていなかったけれど……」
当然のことながら、無礼があってはいけない。私は淑女として、この家で一夜を明かす必要があるのだ。
それはもちろん、当たり前のことを当たり前にすればいいだけではある。ただ、そう思っても不安はまったく拭えないのだ。
「まあ、こんな所で悩んでいても仕方ないわね……」
私は、意を決して部屋の外に出た。
そこには、知らない廊下が広がっている。
しかしながら、私はその廊下に見知った人達を見つけた。それは、先程会ったラルード様の弟さんと妹さんである。
「リーン様に、ルメティア様、こんな所で何をされているのですか?」
「あ、アノテラ様、こんにちは」
「ええ、こんにちは」
私が声をかけると、二人は笑顔を返してくれた。
エンティリア伯爵とよく似たその笑顔は、彼らの血を感じさせるものだった。
それにリーンの方は、ラルード様にもよく似ている。やはり兄弟なのだと、私は改めて実感していた。
「今日は、こちらにお泊りされるんですよね? せっかくですから、少しお話でもしたいと思って、こちらを訪ねてきたんです。ただ、部屋の戸をノックするかどうかを迷って……それで、ここで二人でどうするかを話し合っていたんです」
「なるほど、そういうことでしたか」
ルメティアは、私に対して二人がここにいた理由を丁寧に説明してくれた。
兄の婚約者、二人にとってそれは気になる存在であるらしい。先程から好奇心のようなものが垣間見えるので、これは恐らく興味本位の行動なのだろう。
故に部屋の前まで来て、迷っていたといった所か。迷惑じゃないかとか、色々と考えていたのかもしれない。
「もちろん、構いませんよ。えっと、どこで話しましょうか?」
「あ、それなら私の部屋まで行きましょう。生憎の雨ですから、外でのんびりお茶という訳にはいきませんからね」
「え、ええ、わかりました」
私の質問に対して、ルメティアは特に迷うこともなく即答してきた。
しかしながら、今日初めて会った私を部屋に招くなんて中々大胆な提案である。もちろん断る理由はないのだが、少々気が引けてしまう。
「アノテラ様、お気になさらないでください。ルメティアは、そういうことをあまり気にしませんから」
「え? あ、そうなのですね……」
そんな私に、リーンは小声で苦笑いしながら声をかけてくれた。
彼もこう言っているのだし、私が気にし過ぎるのも変な話だ。とりあえずここは、ルメティアの案に従うとしよう。