婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。
29.山から下りて(モブ視点)
アナプト山の家での夜は、長く苦しいものだった。
ガラルトとロナメアは、一睡もすることができず朝を迎えた。水浸しの家の中で過ごす凍えた夜は、本当に険しいものだったのだ。
「やっと、つきましたね……」
「あ、ああ……」
それから二人は、すぐに下山して数日かけてザルパード子爵家の屋敷まで戻って来ていた。
話し合った結果、一度家に戻る方がいいと結論付けたのである。
「……ガ、ガラルト様?」
「ああ、僕だ。それにロナメアも一緒だ。今、帰った」
屋敷の庭を掃いていた使用人に、ガラルトはいつも通りに話しかけた。
しかし、彼の反応は明らかに悪い。それもそのはずだ。二人は駆け落ちしていた。そんな二人が急に帰って来ても、反応に困ってしまうのだ。
「すぐに、風呂と食事の準備をしろ」
「は、はい。わかりました。そのように手配してきます」
「ああ、待て。父上は、どうしている?」
「あ、えっと……」
流石のガラルトも、父親が怒っているであろうということは予測していた。
故に彼は、必死で言い訳を考えた。別に出て行くつもりはなく、単に事故で連絡ができなかっただけなどという言い訳だ。
彼は、それでことが済むと思っていた。謝れば許してもらえる。そんな考えが、彼の根底にはあったのだ。
「……私ならここだ」
「ち、父上?」
「随分と遅い帰りだな、ガラルト。しかしなんともお前らしい帰宅の仕方だ。結局お前は、私を頼らずに生きていくことはできないということか」
そんなガラルトの前に、ザルパード子爵は不機嫌そうに現れた。
それに対して、ガラルトは後退る。先手を打たれて、言い訳ができなかったからだ。
「もちろん、人は一人では生きていけない。誰かを頼る必要もあるだろう。だがなガラルト、問題なのはお前が身の程弁えていないということだ」
「な、なんですって?」
「私を頼るなら、私の言うことは聞くべきということだ。反発して、都合が良い時には頼る。それを許容する者などおるまいよ。私はお前の親だが、それでもお前のやり方には不快感を覚えずにはいられない」
ザルパード子爵は、ガラルトに対して冷たい視線を向けていた。
その視線に、ガラルトは見覚えがあった。それは父親が、敵と認識した者に向ける視線だ。
「お前に子爵家を継がせるつもりはない。弟のギルバートは、優秀で私に従順だ。お前よりも余程この家を継ぐのに相応しい」
「ギルバートは、妾の子でしょう?」
「ああ、私の血を継ぐ子だ」
ガラルトにとって、妾の子であるギルバートに負けるというのは屈辱的なことだった。
内心馬鹿にしていた弟が子爵を継ぐ。そのことに、ガラルトは怒りを覚えていた。
しかし、彼は何も反論することができなくなっていた。この状況で、言葉を考えれる程に、彼は経験を積んでいなかったのだ。
ガラルトとロナメアは、一睡もすることができず朝を迎えた。水浸しの家の中で過ごす凍えた夜は、本当に険しいものだったのだ。
「やっと、つきましたね……」
「あ、ああ……」
それから二人は、すぐに下山して数日かけてザルパード子爵家の屋敷まで戻って来ていた。
話し合った結果、一度家に戻る方がいいと結論付けたのである。
「……ガ、ガラルト様?」
「ああ、僕だ。それにロナメアも一緒だ。今、帰った」
屋敷の庭を掃いていた使用人に、ガラルトはいつも通りに話しかけた。
しかし、彼の反応は明らかに悪い。それもそのはずだ。二人は駆け落ちしていた。そんな二人が急に帰って来ても、反応に困ってしまうのだ。
「すぐに、風呂と食事の準備をしろ」
「は、はい。わかりました。そのように手配してきます」
「ああ、待て。父上は、どうしている?」
「あ、えっと……」
流石のガラルトも、父親が怒っているであろうということは予測していた。
故に彼は、必死で言い訳を考えた。別に出て行くつもりはなく、単に事故で連絡ができなかっただけなどという言い訳だ。
彼は、それでことが済むと思っていた。謝れば許してもらえる。そんな考えが、彼の根底にはあったのだ。
「……私ならここだ」
「ち、父上?」
「随分と遅い帰りだな、ガラルト。しかしなんともお前らしい帰宅の仕方だ。結局お前は、私を頼らずに生きていくことはできないということか」
そんなガラルトの前に、ザルパード子爵は不機嫌そうに現れた。
それに対して、ガラルトは後退る。先手を打たれて、言い訳ができなかったからだ。
「もちろん、人は一人では生きていけない。誰かを頼る必要もあるだろう。だがなガラルト、問題なのはお前が身の程弁えていないということだ」
「な、なんですって?」
「私を頼るなら、私の言うことは聞くべきということだ。反発して、都合が良い時には頼る。それを許容する者などおるまいよ。私はお前の親だが、それでもお前のやり方には不快感を覚えずにはいられない」
ザルパード子爵は、ガラルトに対して冷たい視線を向けていた。
その視線に、ガラルトは見覚えがあった。それは父親が、敵と認識した者に向ける視線だ。
「お前に子爵家を継がせるつもりはない。弟のギルバートは、優秀で私に従順だ。お前よりも余程この家を継ぐのに相応しい」
「ギルバートは、妾の子でしょう?」
「ああ、私の血を継ぐ子だ」
ガラルトにとって、妾の子であるギルバートに負けるというのは屈辱的なことだった。
内心馬鹿にしていた弟が子爵を継ぐ。そのことに、ガラルトは怒りを覚えていた。
しかし、彼は何も反論することができなくなっていた。この状況で、言葉を考えれる程に、彼は経験を積んでいなかったのだ。