婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

34.円満な結婚生活

 結果だけ考えると、私とラルード様との間に交わされた契約は、それ程意味がないものだったような気がする。
 私達は、仲が良い夫婦になった。そんな私達の間に、離婚する際の取り決めなどは、必要ないものだったのである。もちろん、それは結果論でしかないのだが。

「まあ、こういうものは保険のようなものですからね。使わないくらいで丁度いいのでしょう」
「ええ、私もそう思います……それにしても、不思議なものですね。浮気されて婚約破棄された私達は、こんなに幸せに暮らしているというのに……」
「ええ、これに関しては僕も驚いています」

 ある日、私とラルード様の元へある知らせが届いてきた。
 それは、ガラルト様とロナメア嬢の破局の知らせである。何があったかはわからないが、二人は上手くいなかったらしい。

「あまり耳に入れたいとも思っていませんでしたから、二人のことはよく調べていませんでしたが、なんだか色々とあったみたいですよ」
「色々?」

 ラルード様は、私の前で苦笑いを浮かべていた。
 その表情だけで、二人があまりいい末路を歩んだ訳ではないことがわかる。

「ええ、駆け落ちしたり色々とあったそうで……ああ、ちなみにザルパード子爵家は、ガラルトの弟であるギルバートが継ぐみたいですよ」
「ギルバート……ああ、確か妾との間にできた子の……」
「ガラルトの方は……今は何をしているのか、定かではありませんね。子爵家からは、出ていったようですが……ロナメア嬢も、どうやらセントラス伯爵家を追放されたようですね……これからは、修道女として生きるとか」
「なるほど、二人も色々とあったんですね……」

 ラルード様の説明に、私は驚いていた。
 なんというか、数奇なものだ。あの二人は、私達と婚約破棄してまで結ばれたというのに、何故か結局悲惨な結果に落ち着いてしまったようである。

「まあもっとも、二人がどうなると最早私達には関係がないことですからね……」
「ええ、まあそれはそうですね」

 私の言葉に、ラルード様は深く頷いた。
 あの二人とは、色々とあった訳ではあるが、正直彼らが今どうしているかなど私達にとってはそれ程重要なことではない。もう私達と彼らは、関係がないからだ。

「僕達には僕達の生活がある訳ですからね……これからも、幸せな生活を続けましょう。この契約書の名の元に」
「ええ、もちろんです。私達はあくまでも円満な契約結婚ですから」

 そこで私とラルード様は、笑い合った。
 これからも私達は、二人で穏やかな生活を続けていくだろう。婚約破棄された者同士、円満な結婚生活を続けていくのだ。
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