婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

6.契約結婚の申し出

 ラルード様は、本当に後日すぐに連絡してきた。
 そして、私達の縁談は本当にまとまったのである。驚くべき程に、早い婚約だった。
 しかし、私達はその裏に何かある可能性も思案していた。故に私は、とある策を仕掛けてみることにしたのである。

「契約結婚、ですか?」
「ええ、私はそれを望んでいます」

 遥々ラーカンス子爵家を訪ねてきたラルード様に、私はそのような提案をしてみた。
 契約結婚、それは婚約に関することをきちんと契約書に残してする結婚だ。
 これには、様々なメリットがある。全てを取り決めておくことによって、利益も不利益も前々からある程度コントロールできるのだ。

「ラーカンス子爵家もエンティリア伯爵家も、婚約破棄によって多大な被害を受けました。それはひとえに、契約書がなかったからだと思うんです」
「ほう?」
「口約束で婚約を結ぶというのは、やっぱり駄目だと思うんです。こういう時になあなあにされたのがいい例です。それぞれの婚約相手の家も謝罪をしてきただけでしょう?」
「そうですね。申し訳ないと思っていても、何かしてくることはありません」

 ラーカンス子爵家としては、とにかくこれ以上の不利益を被りたくなかった。そのためにも、契約書が必要なのだ。利用されて終わるだけではないと、法的な保証が欲しい。
 それを求める正当なる理由は幸いある。事前の婚約破棄を盾に、私はラルード様を説得するのだ。

「ここで契約書があったら、話は変わってきます。例えば、浮気を理由に離婚する場合は浮気した側がいくら払うだとか」
「なるほど、確かにそれは重要なことかもしれませんね……」
「ええ、そうでしょう」

 これを言っておくことには、エンティリア伯爵家の意図を計る意味もある。
 もしも何かやましいことがあるならば、この時点で婚約はなかったことになるはずだからだ。
 しかし、私の提案にラルード様はかなり乗り気である。少なくとも彼にやましいことは、ないということだろうか。

「これは、アノテラ嬢が思い付いたのですか?」
「え? ええ、私の案ですけれど」
「なるほど、あなたは聡明な方ですね」
「あ、ありがとうございます」

 ラルード様は、とても真っ直ぐな目をして私を称賛してきた。
 その目を見ていると、なんだか少し申し訳なくなってくる。彼を疑うということは、もしかしたらすごく恥ずべきことなのではないだろうか。そう思ってしまったのだ。
 しかし彼にそういう意図がなくても、エンティリア伯爵家にそういう意図がある可能性はある。故に、この契約結婚は必要なことなのだ。
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