バー・アンバー 第一巻

✕✕✕✕✕✕✕の霊を告げる

彼の意が別にあることは分かっている。ここに来る途中で、電話で彼に告げた〝珍しい女〟と云ったその分けを、搔い摘んで話していたのだ。「分かってるって、そんなことは。俺が入れ込む分けないっしょ?俺が行きたいのはお前が〝この世の女じゃない〟なんて云うからだよ。ってことはその女コレなの?(両手を前に垂らして見せる)その女、足あった?」「ガハハハ。馬鹿云うなよ。あった、あった。足も、それに…(声を潜めて)オッパイもな」「なにぃ~?オッパイ?!」偶然通りかかった女給が口を押さえて吹き出す。それへ山口が「いやいや。ごめん、ごめん、菊さん(この女給は既に俺たちの馴染みだった)。(俺を指差して)こいつが卑猥なことを云うからさ。あ、あの、お詫びにお銚子もう一本ね。今度は本醸造でお願いします」「はい」と承ったあと「いいんですか?支店長さん、オッパイなんて云って。会社の人たちに告げ口しちゃいますよ」と云うのに「ダメダメダメダメ…」と大仰に手を振る山口。デスクの威厳が落ちると云うものだ。女給が去ったあとで俺は「実はな…」と事の顛末を語って聞かせる。アダルトティックなところは極力省いて、またバーを後にして以後の霊との遭遇体験をも省いてだが、しかし肝心要の、彼女ミキが✕✕✕✕✕✕✕の霊であることを確信していると、そう告げてみせたのだ。
「✕✕✕✕✕✕✕?あの✕✕OL殺人事件の?それが何よ、えーと、何て云ったっけ?ショ、ショーダイエイ?」
「そう、邵廼瑩(ショウダイエイ)。いま云った✕✕✕✕✕✕✕さんへの肉体の提供者だよ。✕✕新聞の新聞記者だ」
「へー、邵廼瑩ね。霊媒みたいなものかね。しかし…(失笑してから)おいおい田さん、お前さんがその手の類のことをユーチューブで配信しているのは見て知っているけどさ、それにしてもなあ…ちょっと大丈夫かや?頭(おつむ)の方は。あんまり入れ込み過ぎてちょっとおかしくなってんじゃないの?一度精神科に見てもらった方がよくないか?」話題が話題だけに立て込んで来た廻りの客の耳を気にしながら山口が小声で宣ってくれる。
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