バー・アンバー 第一巻

神泉駅へ向かう田村

「なに?上さん?もう、もらってるよ。こいつだ(と云ってポケットからタバコを出して見せる)。こいつと一発やりたくなった。そろそろ上がるか?」
「ああ、そうしようや。その上さんが俺はおっかなくなって来たからな。(ちょうど通りかかった女給に)あ、菊さん、上がり湯ちょうだい」
「はい。(山口の言葉を聞き齧って)支店長さん、このあとハシゴなんかしちゃ駄目ですよ。山の神、山の神。うふふ」
「俺はしねーよ。だけどこいつ(俺)は危ないな。何せ花の独身貴族だからさ」
「馬鹿野郎…」
こうして山口への〝介護新聞記者ならぬ〟ユーチューバーとしての現況報告は終った。ここまでで優に1時間以上過ぎていたのだ、俺のレクチャーやらで。時刻は既に6時半になっていた。海鮮風炉を出て秋葉原駅までは山口といっしょに行く。山口は吉祥寺に住んでいた。駅に着いて総武線改札口に向かう山口が「おい、田さん、まっすぐ帰るんだろ?」と聞いて来た。俺は「ああ、山手線でな」と答える。「なに?山手線?…ああ、わかった。神泉、とかだな。カーッ、しょうがねえなあ、まったくもう。気をつけろよ」で手を振って別れる。ふっ、しかし感のいいやつだ。俺の性癖と意気込みからしてさもやありなん、と見抜いてやがる。確かに、俺も自分が頑固で不器用だと思う。思い込みも激しかろう。しかし「助けてよ、田村さん…」とすがったミキを放って置けようか?本来ならあり得ぬ、イブ
から示された〝真の人生〟への指針を放棄できようか?俺はミキの闇への感触を得べく神泉へと向かうのだった…。

※「バー・アンバー」だいぶ長くなってしまったので、ここまでを第一巻として終えて、新たに第二巻をアップします。引き続きご期待ください。from多谷昇太。
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