バー・アンバー 第一巻
いやだ!止めてよ!
「ミキ、俺の厄介ごとはいずれまた日を改めて聞いてもらうけどさ、今はアレでしょ?アイツが来そうなんでしょ?」とサジェストして俺はミキの心を今の切迫時へと呼び戻す。可哀そうだったが仕方ない。すると当然のようにミキの表情が沈痛なものへと変わる。しかし俺は構わずに「だったらさ、今はひとことだけ聞かせて。ね?いいかい?ひょっとして君は、さっき君が云っていた真っ暗な世界、寂しくって、悲しい世界?…から来たんじゃないのかい?つまり…その、君はもうこの世の人ではないと思うんだけど」と訊くのをさえぎって「いやだ!止めてよ。突然そんなことを…だって、わたしはちゃんとこうしてあなたと話してるでしょ?な、なんで、そんなことを云うの?」とミキがヒステリックに取り乱す。そうか、そうなのかと今さらのように俺は心中で独り言ちた。誰でもそうだろうが死んだ人間と、あの世の霊と、対面して話し合うなどという経験は俺にはなかったので話の持って行きようがなかったのだ。同じ霊でも天上界の光の霊は知らず、ミキのように突然の不慮の死というか、殺人などの不幸な死に方をした霊は自分の死を自覚していないとかつて聞いている。仮に誰かが「あなたはもう死んでいる」と云って聞かせても肯んじ得ないのだとか。実際のところそのような彼、彼女らは異次元世界においてこの世の我々と同じように身体(霊体)をもって〝生きて〟いる、生活しているのだ。それならば誰が死を肯んじ得ようか?しかしそれならば今のミキにおけるこの瞬間、この世の今の現実はどうなのかというと(これ以前のレクチャーもどきも皆そうだが)、ここで俺の宗教知識が役に立つ。