バー・アンバー 第一巻
アンバーファッションな女
薄茶色のスタンダードコートを襟も前も開けてベルトループを垂らし、コートの下は焦げ茶色のブラウスとパンツストレッチで、靴は黒のハイヒールを履いている。上から下にあるいは外から中に色が濃くなって行くような落ち着きのある洗練されたファッションだ。『この店名じゃないけどまさにアンバー(茶色)なファッションだな。年の頃は35?いや40くらいか?それにしてもこの女…』と俺は一瞬でも女の顔、その表情に看取れた。摩訶不思議と云うか何と云うか、自分の足元を見据えたようなその面にはおよそ表情というものがない。どこかもの悲しげでもあるのだが受けた印象はこれが人間ではなく、マネキンのような気がしたからだ。至って気になったがそのまま通り過ぎるだろうと思い目を逸らそうとしたが豈(あに)図らんや、女はコートのポケットから鍵を取り出すと眼前のバーのドアに差し入れたのである。俺はへーっとばかり無言の感嘆符を心中に打って女を見遣り続けた。こんな洗練されたイイ女がこのおんぼろバーのマダム…?と呆れながら。女に怪しまれないように俺はわかばをもう一本取り出すとあわてて火を点ける。ドアを開けて中に入ろうとした女が一瞬ふりかえって俺を見た。そしてこの時である。またしても摩訶不思議としか云いようのない一瞬のメタモルフォーゼを俺は見せられこととなった。