バー・アンバー 第一巻
わが身は別世界へと…
この光景はかなり感じは違うがかの映画「エクソシスト2」内で リチャード・バートン演ずる神父が超能力者コクモから「Show me your Religious!(汝の信仰を示せ!)」と迫られた場面と通じるような気が俺にはする。生身の身体が階段を踏みはずす恐れと云うよりもあの『やはりこの女は幽…?』という(至極エゴイスティックな)危惧をぬぐえないのだ。さらには万が一自分の身体も宙に浮いてしまったら?という未体験ゾーンへの恐怖もある。しかし腰を低くして懇願するイブの姿に『田村さん、きっとね』と念を押したミキの姿が重なり、俺はここぞ自分の Religious(ここでは信念or決定とでも捉えられたし)を示すべき切なる場と心得た。おもむろにイブに手を差し伸べながら俺の位置よりやや上方にいるイブの位置から憶測して、現実にある下り階段のステップへではなく、むしろ上向きのスロープに踏み出すがごとくに足を踏み出した。すぐにイブの手が伸びて来て俺の手を掴むと強く引いてくれる。下り階段を二段ほど踏み外したごとくに下に身体が落ちると思いきやさにあらず。サンダル履きの足の裏に土と草の感触を感じながらイブに引かれるままに〝目に見えぬ〟ゆるやかなスロープを俺は歩み出した。イブが俺に繋いでいない自分の右手を胸に当てて上を仰ぎ見、なにごとか呪文のような、祈祷のような言葉を口にする。それは英語ともラテン語ともつかない、しかし不思議とどこかで聞き覚えのあるような、耳にやさしく響きくる言葉だった。すると次の瞬間なんと云うか、全身に〝光のシャワー〟を浴びたような感覚を一瞬覚えたあとで、いきなり今の団地の階段とは異なる、まったくの別世界にいる自分を発見するに至ったのだ!どことも知れぬ、草がところどころに生えている丘陵を俺はイブに手をつながれて歩いている。いずこともなく女声でイスラム教の祈祷のような歌声が流れてくる。