バー・アンバー 第一巻
やるのか…仕方がない
そこには10数名ほどの男たちが俺を待っていたかのように整列していたのだが俺はギョッとして、一瞬殺気立った目で彼らを見据えた。この男たちを背後から幾許もなく飛び出して来るだろう追手の軍勢の一味と勘違いしたからだ。しかしすぐに間違いに気づく。彼らは誰も無言で何も云わなかったが見れば竹槍や棒、あるいは三八銃などをそれぞれの肩にかついで俺の指令を待っているようなのだ。つまり俺の味方(もしくは部下たち)ということだ。なぜそう思うのか自分でもまったく分からないのだが不思議と直感的にそれが知れるのだった。誰も彼もがどことなく俺に似ている気がする。そこには年配者もいれば若者もいて、服装はそれぞれの職業や身分を表すようなてんでバラバラの姿なのであり、決して一様ではないのだが、それにも拘らず彼らがみな俺の同胞という気がしてならない。その彼らの面持ちにどこか俺を責めるような心象を覚えつつも、しかし同時に死を覚悟したような悲壮観を湛えているのが、なんともやるせない気持ちとなって察せられるのだった。それを見るに至って俺はようやく自らの恐怖心(自己保存の心)を些かでも制御し、越えて、彼らを思う心を湧出せしめたようだ。彼らに向って「あなたがたの(俺を守るという)気持ちはありがたいがしかしそんな貧弱な装備では絶対に叶う相手ではない!(なぜ分かるのか自分でも知れなかったが)やつらは特別な精強部隊だ!だから…ね?頼みます。おのおの散って…そしてすぐに逃げてください!たった今!」と半ば命令するように呼び掛けた。しかし彼らは互いに顔を見合わせたあとで不服従を示すように首を横にふったりあるいは黙ってうなだれたりするばかり。少なからぬ者の目には涙さえ浮かんでいた。「閣下」と彼らのうちの年長者が俺に云い他に合図をしたようだ。すると彼らは俺に覚悟を促すかのように一斉に捧げ銃をした。「やるのか…仕方がない」俺はそうつぶやいて、もはや彼らと運命を共にするしかないと覚悟をきめた(…のか?)。