バー・アンバー 第一巻

あさましき俺の背(せな)

手にしていたメイスを床に放り投げ「引き裂いてやる」とばかり両手を翳してにじり寄ってくるその様こそは、最前より悪しき想念を送ってくる存在そのものの姿とも思われた。『おい、どうした?この通り俺も素手だ。お前の臣下の仇を取ったらどうだ?まさかお前、臣下を見殺しにしてそのまま…』なる想念が物理的迫力を伴って伝わりくる。戦うどころか、俺の膝は震え全身が震えて…畢竟俺は踵を返すと脱兎のごとくに駆け出した。女のように悲鳴を上げながら、ジャスト逃げ出した。恐ろしい、ただ恐ろしい!見栄も義も臣下(…なのか?)を思う心も何もない。あるのは助かりたい、おのれだけが助かりたいという一心だけだ。「ワハハハハハ」あさましき俺の背(せな)に魔王の哄笑が響き渡った…。
pagetop