バー・アンバー 第一巻
ピュグマリオン
両の手を仙骨の両脇辺りに当てて胸を反らし、顎をあげてのけぞってみせる。乳房と云いくびれた腰と云い、もとよりその容姿と云い、これ以上はない理想的な女体美の極致である。それを文字通り見せつけるようにしばし誇示して見せたあとで、女はようやく脇に置いてあった赤いランジェリー風の肩紐ドレスを手に取った。足を差し入れ腰を浮かせてドレスをウェストあたりまでたくし上げると右手左手と肩紐に入れて一応は身に纏ったが、未だ背中のジッパーは開けたまま、ドレスはウエストあたりにたくし上げたままで、赤いランジェリーショーツと白い両脚は丸見えのままだ。俺はと云えばあれよあれよの真昼の白昼夢の展開に魅せられ切って、一物はいきり立ち、今にも射精しかねない始末。わが年令の52から34を差し引いた時分まで若返ったような、もっと云えば始めて女体を見たような童貞のごとき為体をなしている。これは思うに今のこの場と状況が現実ではなく夢中だとするならばさもやありなんとするような塩梅なのである。夢の中では感情や欲望が精鋭化され制御が効かなくなると云うではないか。まさにその如しなのだ。「ピュグマリオン?」とどこかで声がした。ピュグマリオン?…そうだ、その通りだ。うまいことを云う、確かに今を伝えるならピュグマリオンの状況を引くにしかずと云えるだろう。ギリシャ神話にあるキプロスの王ピュグマリオン王の逸話…王は現実の女性には見向きもしないでひたすら自分の理想とする女性像を彫り続けたと云う。やっと彫り上がったその女性像を王は寝食を忘れるほどに愛し続け、鑑賞し続けるのだが、やがてその像に生命(いのち)がこもり…。