バー・アンバー 第一巻
邵廼瑩(ショウ・ダイエイ)に肉迫
しかしここで戦慄を覚えた。(夢だったが)昨晩のイブの訪問やら、こちらは実際に開けた突然の霊視のことが思い出されたからだ。それと同時にこちらも失念していた、バー・アンバーにおいてミキから打たれた指輪注射(だったのかな?)のことも思い出す。「まったく…勘弁してくれよな」とおまじないのようにつぶやいたあとで俺はドアを開け階段を降りて行った。そこらに変なものは立っていないかキョロキョロ見まわすが何も見当たらない。ゆうべ見かけた事故のあった交差点にいた地縛霊(?)も出ずじまいだし、いずみ中央駅から乗った相鉄線の電車内でもJRでも最後の地下鉄内でもついに何も出没しなかった。「よかったーっ!」心中で快哉する。どうやら霊視能力は失せたらしい。こんなものがこれからもずっと続くなら俺はノイローゼになりかねないだろう。とにかく「よかった」のだが、ただ〝いまここに居ながら同時に違う場所にも居る〟というあの変な感覚だけはずっと続いていた。これがあの指輪注射のゆえかどうかは今はわからない…。さて、地下鉄内幸町駅から5分も歩かないうちに邵廼瑩が勤める✕✕新聞社前に着いた。眼の前には屋上がアーチ型になっている日本プレスセンタービルの瀟洒な威容が聳えている。ここは日本の報道界の中枢と称され、〝諸外国の賓客や国内の重要人物を迎えての記者会見を主要な任務とする日本記者クラブ、新聞界の共同団体である日本新聞協会、外国の報道機関に取材の便宜を提供するフォーリン・プレスセンター、そして、新聞・報道各社の支社局や取材拠点などを収容している〟と紹介されている。なるほどそう云えばビル前の路上にはセンチュリィが停まっている。俺などには松田優作主演の「探偵物語」の主人公がドテラ姿で一流商社ビル内に現れたようなものだ。身が怖気づく。