世界を救わなくったって
こ、こういうときは、どうすればいいのかな?


「勇者様」

「勇者様」


私のまわりにいる人は、皆口をそろえて同じ単語を繰り返す。

少し怖い。


「勇者テイル、ぜひこちらでゆっくり話しませんか?」


急に、知らない人に手を取られた。
会場の端に連れて行かれる。
同じ空間なのに、人の圧迫感がない。


「こういう、人の多い場所は慣れないでしょう?」


あらためて、人混みから解放してくれた人を見上げる。
私より少し年上くらいの男の人だ。
落ち着いた雰囲気
私はあと数年で、この人のような落ち着きを手に入れられるだろうか?
……難しそう。


「す、すみません。気を遣っていただいて……助かりました」


頭を下げてお礼を言う。
男の人は軽く笑う。


「あはは、気にしないでください。テイルさんと二人っきりで話したかったので」


二人っきり?
遠目から、いろんな人から見られているのだけれど……


「テイルの手を握らないでください」


突然私の死角からフィアーバが現れたかと思ったら、男の人の手首を掴んでいた。
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