狼上司と秘密の関係
そういうのがふさわしい鋭利さだった。
「これを見たら誰でも逃げ出す。恐いに決まってる」
「そんなこと……」

口で否定しても伝わらない。
そう考えた千明は大和の胸板に触れた。
人間のときならきっとここまでの筋肉はついていないんだろう。

満月の日、もしくは野性的な興奮を感じたときだけに出現する筋肉。
触れた肌は燃えるように熱い。
獣の体温だった。

「私は怖くない」
いつの間にか敬語を忘れていた。
大和がなぜすぐに泣きそうな顔をするのか、なんとなく理解できた気がした。

また誰かが自分の前からいなくなってしまうかもしれないという恐怖を、ずっと胸に抱えて生きてきたからだろう。
「私は怖くないよ?」
そっと、自分から体を寄せる。

胸に頬を当てると大和の心音がハッキリと聞こえてきた。
どんな姿でも、どんな悲しみを持っていても、こうしてしっかりと生きている。
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