狼上司と秘密の関係
それだけでよかった。
「千明……」
大和の声が震えている。

顔をあげると千明の頬に涙が振ってきた。
大和の銀色の両目が濡れて、そこから涙がとめどなく溢れてくる。
「今までひとりで、誰にも相談できずに辛かったんだね」

千明は大和の頭を抱きしめた。
大和は両手で自分の顔を覆って肩を震わせる。

それは危険な獣なんかじゃなくて、自分を理解してもらえない弱い生き物だった。
「でも大丈夫だから。これからは私がいるからね」
少し癖のある髪の毛を撫でると、とても柔らかくて心地よかった。

顔を近づけてみると、シャンプーの爽やかな香りの中に、ほんの少し野生の匂いが混ざっている。
大和は千明の体を抱きしめて、ふたりはずっとそうしていたのだった。
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