狼上司と秘密の関係
☆☆☆

朝目が覚めると隣で眠る大和は人間の姿に戻っていた。
体の筋肉も、口からはみ出していた牙も消えている。
そっと肩に触れてみてもその体温は人の平常時のものだった。

「おはよう」
ジッと大和の寝顔を見つめていると、視線に気がついて目を覚ましてしまった。
「おはようございます」
つい敬語になってしまい「あ」と、呟く。

ふたりで目を見交わせて笑いあった。
昨晩はなにが起こったのかハッキリと記憶している。
覚えているのに、なんだかモヤがかかったように不鮮明な部分も残っていた。

だけど、とにかく幸せな時間をふたりで共有した。
それだけでもう十分だった。
「昨日は怖くなかったか?」

髪の毛を撫でながらそう聞かれて千明は左右に首を振る。
大和は普段より確かに野生的だったかもしれない。

だけどそこに恐怖心はなかった。
あるとすればやはり幸せだけだった。
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