狼上司と秘密の関係
☆☆☆

大和が言っていたとおり仕事に関しては今までとなにも変化はなかった。
ただときどき視線がぶつかって互いに照れ笑いを浮かべたり、休憩時間になるとこっそりふたりで会話したり。
そのどれもがくすぐったくて幸せで、千明は自分がどんどん大和に惹かれていっていることに気がついた。

「で? いつまで菊池さんって呼んでるの?」
朝の体験教室が終わって午後の準備に取り掛かったとき、不意に梨江が聞いてきた。
「え?」

千明は冷蔵庫か牛乳を取り出した格好で止まってしまう。
「だって、仕事場だけじゃなくてずっと菊池さんって呼んでるんでしょう? 彼氏なのに」
『彼氏』という単語に敏感に反応して危うく牛乳を落としてしまいそうになる。

「そ、それは私の自由でしょ」
牛乳をしっかり握りしめてカップに移しながら言う。

「そりゃそうだけどさぁ。なんかやっぱりじれったいんだよねぇふたりって」
「わかる! 中学生かよ! みたいな恋愛してない?」
梨江の言葉に賛成の声を上げたのは晋也だった。

「中学生だって最近はもっと進んでるよ」
「そうだったかぁ!」
ふたりして千明の恋愛に物申したいことがあるみたいだ。
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