『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~
第12話○台風
同じ事務所に異動になってしばらくしてから気付いたが、彼は私にだけ異様に冷たかった。
仕事上一緒に行動しなければいけないことでさえ「めんどくさい」と嫌がった。
私としては結婚したとはいえ、たまには前のように職員のみんなと帰りにご飯を食べに行きたかった。
……が、せっかく久し振りに大好きなラーメン屋にみんなで行こうという話になったのに、運転手の彼だけ「春香が行くなら行かない」と言う始末……
普段はハイハイと流していたが、あんまりしつこく何回も言うので、「私はお昼に食べそびれたお弁当の残りを食べるから行ってくれば!!」と怒鳴ってしまった。
事務所の玄関で彼が「本当に行かないのか~?」としばらく立っていたけれど、
「……行かないっ」と意地を張ってしまった。
(ラーメン食べたかったな……)
台風で電車が止まった日のこと。
所長が彼に私を送って行けと言ったが「瑠美を迎えに行くからヤダ」と断られた。
瑠美というのは彼の彼女のことだ。
(他の職員だったらOKしてるくせに……)と思いつつ、私が大雨のなか自力で帰ろうとすると「しょうがねぇなぁ」と自宅まで送ってくれた。
途中で彼女を駅まで迎えに行き、三人での車内はシュールだった。
彼女と話す時は、紳士的で優等生みたいな彼。
私と話す時は、ぶっきらぼうでザ・いじめっ子の彼。
(お願いだから普通にして……まぁ仕方ないか……)
いつもは気にせず流せていたが、なぜか涙が出そうになる。
彼女は彼より年下で小柄で本当にかわいらしく、私とは正反対だった。
マンションに着きエントランスのカギを開け、その手を振りながら「ありがとう~じゃあね~」とお礼を言う。
(あれ?……私、無理に明るく振る舞おうとしてる?)