『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~

第13話■誘い


 ある日、仕事が終わりいつものように帰ろうとした時……彼女の携帯が鳴った。
 彼女は恐る恐る何かを見た後に困ったような表情を浮かべながら、僕に思わぬことを言った。

「悠希くん……この後時間ある? 一緒にごはん食べ行かない?」

 突然の誘いの理由を尋ねると、実は最近になって同僚カップルと一緒に何度か飲み会をするようになったが、同僚の彼から個人的にメールが来るようになったとのこと。

 今日に至っては、「事務所の近くにいるから仕事が終わったら二人でごはんに行こう」というメールが来て、二人だと気まずいから一緒に来て欲しいとのことだった。

「そんなの断ればいいじゃん」

「そっか……そうだよね」

 それから1ヶ月位経ったある日、彼女の様子が朝から明らかにおかしかった。
 言動が変にビクビクして落ち着かない。

 彼女が仕事で行く区役所が遠いので、車で送って行けと親父に言われ……渋々運転していた時のこと。
(なんか様子が……)と思っていたら、突然彼女が泣き出した。

 ……と言っても泣き顔を見せないようにそっぽを向いていたので分からないが、
「……っ急にごめっ……」と言う声が明らかに涙声だった。

「……なんかあった?」
 面倒臭そうに聞いてみる。

「……なんでもない」

「泣いてんじゃん」

「……泣いてない」

 ふと前に二人で映画を見に行くことになった時のことを思い出した。

「……映画の時と同じ……」

「実は問題の彼と映画を見に行くことになって……」

「……は?」

 彼女の話によると同僚カップルと彼女と旦那の四人で同僚の家で飲み会があった昨日のこと。

 旦那が酔いつぶれて途中で寝てしまい、同僚がトイレに行っている間に、彼女が見たがっていた映画の話になり「チケットがあるから今度の日曜二人で行こう」と彼に言われたとのこと。

 断ると今度は「レイトショーがやっているから、今旦那が寝ている間に見に行こう」と言うので(それなら三人だし……)とOKしたところ、同僚は夜に予定があったようで出かけてしまい、断りきれず二人で車で見に行ったと言うのだ。

 映画中も口説かれ、ずっと見たかった映画も全然楽しめず、(やっと帰れる)と思って着いたのが彼の家だったと青ざめた表情で話す彼女……

 時々言葉を詰まらせながら、彼に「シャワー浴びるから家に上がれ」と言われ、大泣きして帰りたいと騒ぎ、同僚の家に戻ってもらって旦那を起こして帰った時のことを話した。

「……なんで二人で映画行ってんだよ……バカじゃねぇの……」
< 13 / 73 >

この作品をシェア

pagetop