『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~
○追憶編⑪~愛合傘~
大谷孝次は私と何もかも正反対だった。
私が女の割に背が高めだとしたら、彼は男の割に背が低め。
私が薄い系だとしたら、彼は濃い系。
私が消極的だとしたら、彼は積極的。
「そういえば、大谷孝次って私の好きな俳優さんにちょっと雰囲気似てるかも……眉毛濃いし」
私は中学の時から、ある俳優さんが大好きだった。
きっかけは、有名なアニメ映画で王子役の声優をしていたこと……
エンドロールの名前が初恋の悠幸くんのフルネームとほぼ同じだったので、見間違えた私は以後その俳優さんが何となく気になり、中学時代はその人のドラマばかり見ていた。
そしていつしかファンになっていた……といってもCDを買ったり、映画を見に行く程度のファンだけど。
声がカッコいいのはもちろんだが、演技力も抜群で色々な役をこなすカメレオン俳優といった感じで、濃い眉毛と硬派な感じも好きだった。
中性的で優しい初恋の悠幸くんとは正反対のタイプなのに、なぜなんだろうと自分でも不思議で堪らなかった。
『冬のホタル』というドラマにも出ていて……ヒロインの名字が『篠田』だったので、ドラマの中で名字が呼ばれる度に悶絶し、床をゴロゴロしていた。
後半は名前呼びだったので、ちょっと残念だったが……
ドラマが終わり、(楽しみがなくなって寂しいな)と思っていたら、次の次の夏クールで私が好きな野球を題材にした『戦いの夏』というドラマに出ると雑誌に載っていた。
しかもそのドラマのヒロインの名前が漢字は違うけど『ハルカ』だと言うのでワクワクしていたら、ほとんどが名字呼びでがっかりした。
……が、最終回で一回だけ「ハルカ……」と呼ばれた時はクッションを抱き締めながらキャーキャー転がってしまった。
私は完全に頭の中がお花畑でどうしようもない、少し特殊なミーハー中学生だった。
共通点や似ていることがあると盛り上がってしまうのは私の悪い癖だ。
その俳優さんは丁度、大学1年の春クールの『春の雪』というドラマにも出ていて……
記憶がなくなったヒロインを不器用ながらも一途に愛し続ける姿やラストシーンに号泣し過ぎて鼻水が止まらなかった。
毎週ドラマを見ながら、なぜかふと大谷孝次のことが浮かんでしまい、私は「ちょっと似てるかも……」と呟いた。
初めての英語のスピーチ発表の時、
先に発表した大谷孝次はとても堂々としていて……後ろまでよく通る声でスムーズに発表し、終わった後にはすぐ先生に誉められていた。
授業中も私と彼は正反対といった感じで、私は自信のない小さな声しか出なかった。
しかも、最後の順番まで待っている間に緊張し過ぎて……発表の時には前々から準備をしていた内容をド忘れして固まってしまった。
授業が終わった後、帰ろうとした彼とすれ違った時に「すごかったね~」と誉めたら、
「べ、別に……一夜漬けで適当にやっただけだ」と鼻をこすりながら照れていた。
彼の声は大きくてよく通るので、賑やかな学食内で彼の声だけが聞こえてきたこともあった。
何かの話題で盛り上がっていたり、友達とふざけあって大笑いしたり……
彼が笑うと、なぜか私も嬉しかった。
二人で幹事をやったゼミの飲み会では、流れで誕生日の話題になった。
私が「1月7日」と言うと、大谷孝次が「俺1月27日生まれで20日違い!」と手を挙げ、冬の誕生日あるある話で盛り上がった。
飲み会が終わると、外はかなりの雨が降っていた。
大谷孝次は雨に濡れることを気にする様子もなく、傘も差さずに出ていこうとして……
その姿だけ、なんだか昔の私みたいだなと思った。
私は天気予報を聞いて(今日の帰りは雨が降るな)と傘を持ってきていたので、「一緒に入ろう?」と傘を差し出した。
「い、いいよ」と照れながら断る彼が、なんだか可愛くて……
駅までの道、ちょっと緊張した。
相合傘というものを初めて体験したからというのもあるけど……
そして私は、その数日後……
ある事件をきっかけに行ったファミレスで、まさかの展開に唖然としてしまった。