傾国の落日~後宮のアザミは復讐の棘を孕む
「皇后……が?」
 震える声でつぶやいた紫紅に、徐公公が頷いた。
「そうです。皇后は、頼りない我が子と違い、優秀な魏王殿下が邪魔だった。いつか、皇太子の座を奪われるのではないかと、戦々恐々としていた。だから、魏王殿下を謀叛の罠に嵌め、主上に密告したのです」  
「そんな……」
 紫紅が両手でぐっと裙を握り絞める。
「主上は、それを利用しただけです。あの方は、ご自分しか愛せない。あの方にとってみれば、子も妻も、大臣も、元元(たみくさ)も、奴婢も同じです。……だからこそ、貴女という新しい玩具を手に入れるためならば、息子である魏王殿下を亡き者にするのも迷われなかった」
 紫紅の目の奥が悔しさで熱くなる。腹の底から千切れるような怒りが湧いてくる。
 ――そんな、ことのために、あの人は――
「悔しいでしょう?」
 徐公公が表情の読めない瞳が、紫紅の目を射抜く。
「あなたは悔しいはずだ。……すべての力のない者は理不尽に踏みにじられる。力のある者にとっては虫けらも同じで、踏みにじっても何とも思わない」
「……悔しいわ……」
 搾り出すような紫紅の声に、徐公公の目がふっと細められた。
「悔しさを晴らすには、力を得るしかありません。……あなたはその機会を得た」
 徐公公の声がさらに低くなる。  
「……貴女の未来を拓く宝が、そこに宿っておられるのでしょう?」
 その言葉に、紫紅がハッと息を呑み、無意識に自身の腹を両手で抱きしめる。
 ――誰にも言っていないけれど、ここには、伯祥様の子が――
 スーッと頭から血が引いて、背筋に冷たい汗が流れる。そして同時に、紫紅はひどく冷静になった。
 わたしと、あの方の子が――
 ここには、伯祥の()がある。非業に死んだ伯祥の血を伝えることができる。
 だが、この子が伯祥様の子だと知られてはならない。
 紫紅はゾクリとした。
 もし知られたら、産むことは許されないだろう。だが、皇帝の子だと思わせられれば――
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