傾国の落日~後宮のアザミは復讐の棘を孕む
「紫紅は、温かいね」
月の光が差し込む臥床の上で、新妻の肌を撫でながら伯祥がしみじみを言った。
「辛くなかった?」
夫の裸の胸にもたれかかった状態で問われて、紫紅は顔をあげ、首を振る。――正直に言えば、破瓜の痛みは相当にあった。それでも――
「いえ、わたしは、幸せです」
「そう。私も幸せだ。こんな風に、誰かに抱きしめてもらったのは、母上が亡くなってからは初めてかもしれない。……本当に、私の妻になってくれたんだね」
「伯祥さま……」
伯祥が、両手で紫紅を抱きしめて、深いため息をつく。
「父上には感謝してもしきれないな。こんな、美しくて優しい妻を寄越してくれて。実を言えば、どんな性悪女が送りこまれてくるか、内心ひやひやしていた」
くすくすと笑いながら、伯祥は紫紅の艶やかな黒髪を指で梳いた。
「綺麗だ。……面布をあげて顔を見たときは、小躍りしそうになるのを押さえるのに必死だった」
「そんな……褒めすぎです」
「そんなことない。……きっと父上はそなたの顔を知らぬのだ。そなたを見ていたら、私のようなどうでもいい息子の妻になどせず、後宮に入れて我が物となさったに違いない」
「ご冗談を。たいした取り柄もない下級官吏の娘が、親王殿下の妻になれるなんて、わたしこそ過分なご沙汰に怯えておりましたのに」
紫紅が目を伏せ、伯祥の胸に顔を寄せる。
「わたしは幸せものです」
「そう。……お互い、これからも末永く添い遂げたいものだ」
「はい。……伯祥様」
伯祥の手が紫紅のうなじに回され、顔が引き寄せられる。そのまま伯祥の口づけを受けて――
この夜、紫紅は伯祥と鴛鴦の契りを交わし、偕老同穴を誓った。
死しても離れることはなく、生涯、互いだけ――
だが、二人の蜜月はわずか数か月で終わりを迎えた。
月の光が差し込む臥床の上で、新妻の肌を撫でながら伯祥がしみじみを言った。
「辛くなかった?」
夫の裸の胸にもたれかかった状態で問われて、紫紅は顔をあげ、首を振る。――正直に言えば、破瓜の痛みは相当にあった。それでも――
「いえ、わたしは、幸せです」
「そう。私も幸せだ。こんな風に、誰かに抱きしめてもらったのは、母上が亡くなってからは初めてかもしれない。……本当に、私の妻になってくれたんだね」
「伯祥さま……」
伯祥が、両手で紫紅を抱きしめて、深いため息をつく。
「父上には感謝してもしきれないな。こんな、美しくて優しい妻を寄越してくれて。実を言えば、どんな性悪女が送りこまれてくるか、内心ひやひやしていた」
くすくすと笑いながら、伯祥は紫紅の艶やかな黒髪を指で梳いた。
「綺麗だ。……面布をあげて顔を見たときは、小躍りしそうになるのを押さえるのに必死だった」
「そんな……褒めすぎです」
「そんなことない。……きっと父上はそなたの顔を知らぬのだ。そなたを見ていたら、私のようなどうでもいい息子の妻になどせず、後宮に入れて我が物となさったに違いない」
「ご冗談を。たいした取り柄もない下級官吏の娘が、親王殿下の妻になれるなんて、わたしこそ過分なご沙汰に怯えておりましたのに」
紫紅が目を伏せ、伯祥の胸に顔を寄せる。
「わたしは幸せものです」
「そう。……お互い、これからも末永く添い遂げたいものだ」
「はい。……伯祥様」
伯祥の手が紫紅のうなじに回され、顔が引き寄せられる。そのまま伯祥の口づけを受けて――
この夜、紫紅は伯祥と鴛鴦の契りを交わし、偕老同穴を誓った。
死しても離れることはなく、生涯、互いだけ――
だが、二人の蜜月はわずか数か月で終わりを迎えた。