君の隣は誰にも譲れない
「そんなものは先々金になるかわかりはしない」
「叔父さん!」
私が声を上げたところで、叔母さんも入ってきた。
「稚奈ちゃん。実はあなたにとてもいいお話が来ているのよ」
叔母さんは叔父さんの隣に座り、目配せすると大きな写真を開いて見せた。そこには神経質そうなメガネをかけた男の人がスーツ姿で映っていた。
「この方は高藤化学の社長の息子さんで相互茂さんよ。稚奈ちゃんより六歳上の三十二歳。丁度男盛りよ。化学者で理系の稚奈ちゃんとは意見が合いそうよ。ぴったりだわ」
「……」
あっけにとられている私を尻目に、叔父も言った。
「実はね、こちらの会社の傘下に誘われているんだ。何しろ、高藤財閥グループの会社だ。君が持っている兄さんの特許も高藤化学に渡せばもっと大きな利益にしてくれるよ」