君の隣は誰にも譲れない

 信じられない。この人達は何なの?親族の仮面を被った、敵対的買収の手先じゃない!

 父は私に遺言で自分の持っていた株を私にくれた。あまり、会社経営に積極的でなかった父を特許を取得したことをいいことに叔父が会社化してしまった。

 しかも、元々父は研究者、叔父は製薬会社のサラリーマンだった。叔父は父を利用したんだろう。株の半数近くは叔父が持っていると聞いていた。

 父が亡くなったことでいくつかの取引先が危機感を訴えて取引を縮小しているらしいとは聞いていた。だからといって、うちに将来性がないわけではない。

 研究内容など少しも知らないというのもあるだろうが、先々の話を取引先に説明しない叔父が悪い。父の持っていた特許と今研究中のものがあればまだ巻き返せる。

「叔父さん、そんな身売りのようなことをしなくても、まだ大丈夫です。それに、そんな縁談はお断りします」

「いや、悪いけどね、稚奈ちゃん。これは会社の吸収合併の条件なんだよ。彼はね、兄さんの生前に一度この会社へ見学に来ていて、君を見初めたんだそうだよ。兄さんにも挨拶してあったそうだ」
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