君の隣は誰にも譲れない
離婚を決めた母は、私を連れて行きたがったが、私はついていかなかった。
なぜなら、父の周りにあるこういったビーカーやフラスコ、顕微鏡などが大好きだったのだ。小さい頃、父に顕微鏡を見せてもらって虜になった。
物心つくとそれがいじりたくてしょうがなかった。一度、落として割って怪我をしてから、父は私に見せていた本物ではなく、おもちゃの顕微鏡や割れないビーカーを与えた。でもそれは偽物だと子供心にわかっていた。
いつか、父の周りにいる人のように、白い服を着て試験管を目の前でフリフリするんだと決めていた。私は、変な話、母についていくとその世界から離れるとわかっていた。
母は私をおいて出て行った。そして、他の人と一緒になり、今は別な家庭を持ち、子供もいる。
私は母の代わりに家事をこなし、大学に進学した。
そして、ようやくこの世界に入った。父はとても喜んでくれた。でも、そのときにはもう、父の身体は病魔がむしばんでいたのだ。
父が入院して余命宣告されたとき、病室にひとり呼ばれた。