君の隣は誰にも譲れない

 離婚を決めた母は、私を連れて行きたがったが、私はついていかなかった。

 なぜなら、父の周りにあるこういったビーカーやフラスコ、顕微鏡などが大好きだったのだ。小さい頃、父に顕微鏡を見せてもらって虜になった。

 物心つくとそれがいじりたくてしょうがなかった。一度、落として割って怪我をしてから、父は私に見せていた本物ではなく、おもちゃの顕微鏡や割れないビーカーを与えた。でもそれは偽物だと子供心にわかっていた。

 いつか、父の周りにいる人のように、白い服を着て試験管を目の前でフリフリするんだと決めていた。私は、変な話、母についていくとその世界から離れるとわかっていた。

 母は私をおいて出て行った。そして、他の人と一緒になり、今は別な家庭を持ち、子供もいる。

 私は母の代わりに家事をこなし、大学に進学した。

 そして、ようやくこの世界に入った。父はとても喜んでくれた。でも、そのときにはもう、父の身体は病魔がむしばんでいたのだ。

 父が入院して余命宣告されたとき、病室にひとり呼ばれた。
< 17 / 91 >

この作品をシェア

pagetop