君の隣は誰にも譲れない

 彼は後部座席をじっと見た。

「えーっと、一番近い駅でいいですか?地下鉄ですけど……」

「構わない。君はこのあと大丈夫なのか?」

 確かに大通りは雨で車が渋滞している。運転しながら、答えた。

「ええ、私は大丈夫です。ちょうど、研究所から事務棟のほうへ行こうかと思って出たところなので、休憩が欲しかったんです」

「悪いな、休憩を使わせて」

「いいえ、車の運転はいい気分転換になるし、私には休憩になります。あの、失礼ですがうちの誰かを訪ねてこられましたか?」

「ああ、君のお父様へ会いに来た」

 驚いた。私が娘だと知っている?
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