君の隣は誰にも譲れない
「わかりました」
彼は私の手を握り、おでこにキスをひとつ落として笑顔で消えた。
柴田さんは車の中で私に話した。
「昔からそちらに伺うときは、内密で行っておられました。人目につかないためです。小さい頃、お嬢さまと暮らして可愛かったとずっとおっしゃっておられました」
「……そうですか。私は記憶がなくて」
「まだ、お小さかったですからね。でも、いつも坊ちゃんの服を引っ張って、坊ちゃんが見えなくなると泣いていたと言ってました。坊ちゃんも兄弟姉妹がいなかったのでお嬢さんを本当に可愛がっていたようです」
「そうだったんですね」
「本宅へ連れてこられて数日してからのことです。お願いがあると言うから、栞様に会いたいのかなと思えば、第一声が『稚奈に会いたい』でした」
「……え?」
「栞様はお嬢さんのお母様とうまくいかなくて、結局自分が原因で離婚されたと聞いて更に神経を病んでしまわれました。でも、お母様が再婚されて幸せになられたのを聞いて安心したんでしょう、身体は相変わらず弱いですが、海外でゆったりと暮らされています」
「……そうだったんですね」