水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「海里のレアな笑顔が見れて、私はすごく嬉しいよ!」

「……俺の笑顔を喜んでくれる真央が、腕の腕にいるなど……夢のようだ……。今なら、死んでもいい…」

「おい。オレ達がなんのために集まったと思ってんだ」

「海里くんは、真央ちゃんと笑い合っていなきゃ駄目だよ」


 一番最初に笑ったのは、誰だったか。かつての仲間たちは瞳に涙を浮かべる程笑い合った。

 まるで12年前に戻ったかのように。

 この空間だけが、和気あいあいと、和やかな空気で──海里は居づらくなったのだろうか。

 真央から身体を離すと、踵を返して出入り口のドアを目指す。


「……海里?」


 この空間から一歩、一人で外に出たとしても。海里に待ち受けているのは、地獄の日々だ。

 一人では到底返済しきれない借金を抱える海里は、真央がいるからどうにか里海水族館の館長として生き続けている。

 真央が居なくなれば、海里はこの世界で生きていくことなどできずに──水槽の中で、溺れ死ぬことを選ぶだろう。

「海里、もう少しだよ」

 海里はドアノブに手を掛けたが、ドアノブを捻ってドアを開け、外に出ようとすることはなかった。

 ドアノブを握る海里の手は、震えている。

 真央は海里の背中へ、安心させるように優しい声音で声を掛けた。


「……真央……」

「碧さん達が来てくれるんだもん。あと半年なんて言わずに、数ヶ月で達成しちゃうかもしれない!」

「……ああ……」

「頑張ろうね、海里」


 真央は海里が真央のそばから離れていかないように、海里の背中に抱きついた。

 その言葉が海里の負担になっていることを、気づきもせずに──。

< 100 / 148 >

この作品をシェア

pagetop