水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 紫京院から碧を煽って喧嘩を売るなど思わなかった真央は、目を丸くしながらバチバチと火花が散らす二人を見守った。


「海里さんに啖呵を切ってお辞めになったあなたが、一体なんの用ですか」

「知らねーのかよ。俺が今日の、クリスマスプレゼントだ!」

「丁寧に箱詰めされてラッピングされた山猿……乱暴すぎて、箱とラッピングは破り捨ててしまったのでしょうか。見当たりませんが」

「お前、冗談って知ってるか?」

「ええ、もちろん。山猿の悪ノリに付き合って差し上げただけです。クリスマスプレゼントなど、よく言えたものですね。どうぞ、お帰りください」

 紫京院は真央を冷たくあしらっていたのが嘘みたいに、生き生きと瞳を輝かせ碧と言い争っている。

 口から出てくる言葉は全て棘のある言葉だが、彼女の身体からは幸せオーラが溢れて止まらないようだった。

(これはもしかして、もしかするのかなぁ……?)

 かつては兄と慕っていた碧が嫌いな女に突っかかられていたら、弟として黙っていないだろうに……。

 海里は、心ここにあらずな様子でぼんやりと二人の軽快な掛け合いを見守っているだけで、二人を止めることはない。真央の想像は、当たっているのかもしれなかった。


「どこに帰るっていうんだよ」

「ですから、山か動物園に」

「アホか!帰らねぇよ。オレは今日から、ペンギン担当の飼育員だ。いいか?オレ様が帰ってきた以上は、お前に好き勝手なんざさせねぇからな!覚えとけよ、女狐!」

「まぁ、怖い……。海里さん、このような野蛮な山猿は、里海水族館にふさわしくありません。試用期間を終えるまでに、クビを切るべきです」


 紫京院はビシリと碧に向けて指差しすると、首元で親指を右から左へ動かした。言葉通り首を落とせと海里に懇願しているのだ。

 穏やかではない話だが、紫京院が苛立っているような様子はない。

「え、ええと……。お二人は、お知り合い……?」

 戸惑いがちに真央が問いかければ、紫京院は無言を貫いた。

 碧はそんな彼女の様子を見て苛立ちが隠せないようで、彼女を蹴りつけるような動作をしている。
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