水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「……俺は6年前から、紫京院に金を借りている。俺が、18の時だ。碧が辞めたのもその時だが、彼女はそれよりも前から……ここで従業員として、働いていた」

「えっ、そんなに長いの!?見た目は海里と同い年くらいだよね……?も、もしかして……だいぶ、年上……?」

「乙女に年齢を聞くとは……失礼な方ですね」

「お前、乙女なんて年齢じゃねぇだろ」

「彼女は8年前──18の時から、勤めている」

「えっ、じゃあ、海里と2つ違いだから、私と4つ違いで……碧さんとは……」

「そんなに年変わんねぇんだよ。若作りの女狐だからな、こいつ」


 真央は24歳、海里は26歳だ。

 海里の二つ年上ならば、紫京院は28歳となる。碧は12年前、高校卒業と同時に里海水族館で働き始めているので、碧ともそう変わりのない年齢だ。


 てっきり真央は、自分か海里と同い年だと思っていたので、この発言には驚いてしまった。


「と、年上……」

「何か文句でも、あるのですか」

「い、いえ。な、なんでもないです……」

「あれほど元気なお転婆人魚がこれほどしおらしくなるのなら、もっと早くに年齢を公表するべきでした」

「あはは……」

「借金の借り換えなど……おだやかではない話が聞こえましたが……それは……」

「うるせぇ。首突っ込んでくんじゃねぇよ、女狐」

「本当に野蛮な山猿ですこと。あっちに行ってください。ああ、そうでした。海里さん。今日は恋人たちの聖夜。クリスマスです。今日こそは、あたしと甘いひとときを――」

「消えるのはてめぇだ!甘いひとときなんざ過ごさせっか!バカヤロー!」


 碧は海里に言い寄ろうとした紫京院の手を取ると、そのまま強引に連行して行った。

「紫京院さんが海里を誘ったのって……冗談、だよね……?」

「ああ」


 本気だと受け取ったのは、碧だけだ。碧から手を引っ張られた紫京院は、してやったりな顔をしていた。その姿を見た真央は、疑惑が確信に変わる。

「紫京院さんの、好きな人って…」

「真央」

 ぼんやりと心ここにあらずな様子を見せていた海里は、騒がしい二人がいなくなると同時に、真央の名前を呼んだ。

 名前を呼ばれた真央は笑顔で海里を見上げ、彼の言葉を待つ。


「二人きりで、話したいことがある」


 今日はクリスマス。恋人達が、甘い聖夜のひとときを過ごす日だ。

 水族館が閉館するまで、真央は来館者を喜ばせるためにマーメイドスイミングショーに出演しては、売店でレジ打ちや品出しに明け暮れなければならない。海里とふたりきりになるなら、閉館後しかないだろう。


「うん。わかった。じゃあ、閉館後にね」

「あぁ……」

 真央がしっかりと頷いたことを確認した海里は真央から身体を離すと、二人は真逆の方向に歩み始めた。

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