水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「女狐は俺が足止めしておいてやる。メリークリスマス。今日くらいは恋人として、楽しんでこい」



 さすがは真央と海里の恋を応援し隊、隊長だ。真央と海里の邪魔をする紫京院を足止めすると真央に告げたが、足止めした気になっているのは碧だけだ。

 紫京院は、愛する人が里海水族館へ戻ってくることを心待ちにしていた。彼女はこのチャンスを逃すことはないだろう。足止めした気になっている山猿は、これから女狐に美味しく頂かれてしまうのかもしれない……。


 真央はこれからのことを思い浮かべながら苦笑いを浮かべ、少し残業してから海里の元へと向かおうとしていた。



「真央」

「あれ?海里。紫京院さんは、碧さんが連れて帰ったよ」

「知ってる。誰もいなくなったから、迎えに来たんだ」

「二人きりにして、大丈夫かなぁ……」

「あの二人には因縁がある。任せておけばいい」

「犬猿の仲って感じだったね」

「ああ」



 海里は嫌っている紫京院の話をしたくないのか、床に座って売上の確認をしていた真央の隣に腰を下ろす。

 クリスマスらしい所がこの場所にあるとしたら、売店の売り場にクリスマスの装飾があることくらいだろうか。これも今日中か翌朝、朝早く出勤して片さなければならない。

 真央はやるべきことを指折り数えながら、海里に問いかけた。


「二人きりで、お話しておきたいことって?」

「社長の手は、取らないことにした」

「……碧さんに、お話してたこと……?」

「ああ」

「みんながいるときに、お話してもよかったんじゃ……」

 海里が真央とふたりきりで話したいことは、大したことではなかったようだ。真央がほっと一息つけば、話がこれで終わりではないと、海里は淡々と口にする。
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