水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 ピッタリと嵌まったボタンは、掛け違えることなく綺麗に止まっている。あとは、ボタンが外れたりボタンの掛け違いが起きないことを、願うだけだ。



(意志を持ったボタンが、好き勝手に動き回るからいけないんだよね。あちらこちらで、掛け違いが起きると……収集がつかなくなってしまうから)



 里海水族館の従業員たちは、個性的で我が強い。一度ボタンを正しい位置にピッタリと嵌めても、すぐ勝手に動いてボタンを外してしまう。

 全員を正しい位置に嵌めはーz真央と海里が目を光らせて彼らが動き回らないように監視し続けられたなら――里海水族館はもっとたくさんの来場者に愛される。ー、有名な観光スポットになるだろう。



(まだまだ、これからだよね)



 真央も立ち上がると、ポケットから一本のネクタイを取り出した。背伸びをして背中から抱きつき、手を回した真央は、海里の首元にネクタイを手慣れた手付きで結ぶ。



「メリークリスマス」

「……メリー、クリスマス……」



 示し合わせていなくとも。互いにプレゼントを用意していた2人は、その場でプレゼントを交換し始めた。

 真央はネクタイを首に巻き付け、身体を離す。

 海里は自分が耳につけていたピアスの片方を外すと、真央と向き合って右耳につけた。



「ピアス?くれるの?」

「12年前。俺にピアス……預けてくれただろ」

「うん」

「結婚する時に、返してくれ」

「わかった!じゃあ、その時は私も新しいの、買うね。それで、交換するの」

「……交換……?」

「そうだよ。二人揃うと1つになるようにしたいな」

「……だったら、真央のピアスを左に付ければいい」

「あ。それ……」



 12年前。別れる直前海里に渡した真央のピアスは、半年前に再会した時、真央がつけていた分も海里に渡してしまった。海里はどうやらずっと、肌見放さず持っていてくれたようだ。



 借金を完済し終えるまで、真央のピアスを海里と一つずつ分け合って付け合うことなど、できそうにないけれど。

 真央は海里から受け取ったピアスを、大切にしたいと思っている。海里が真央へ12年ぶりに、プレゼントしてくれたものだから──。

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