水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
碧と紫京院
真央はクリスマスに海里から受け取ったピアスを、マーメイドスイミングショーの公演中にだけつけるようになった。
「公演中に付けてるピアス。海里のピアスだろ。匂わせかよ」
人手が増えたことにより、公演前後の観客誘導は当番制になったらしい。
公演を終えた真央がおやつ時に昼食を取っていた際、尋ねてきた碧が釘を差しに来た。バレるのが早すぎる。
(このピアスを付けて公演をするようになってから、まだ一週間と経っていないのに……)
顔は碧の目敏さに驚きながら、指摘した。
「目敏いですね、碧さん」
「海里がガキの頃から、ずっと気に入っていて付けてた奴だからな。付き合いの長ければ、誰だってわかんだろ」
「え、そうなの?私、12年前はこのピアス見たことないし、新品みたいにピカピカだったよ……?」
「リメイクか、直しに出したんだろ。それ、付け始めたのは……真央がいなくなった頃からだったか?覚えてねーけど。あんま下手なことすんなよ。真央は里海水族館の稼ぎ頭だ。変なファンが自爆テロでも起こしたら、やべーぞ」
「自爆テロ……」
ピアス一個で里海水族館が吹っ飛ぶような、自爆テロを起こされては堪らない。真央には真里亜のような、ガチ恋勢の厄介ファンなど存在しないとわかっていても……海里から指摘された真央は、もしものことを考えてしまった。
(碧さんの言う通り、だよね……)
真央はピアスを外して大切にポケットへ押し込む。勢いよく惣菜パンを口に入れ、売店に向かって歩き出した。
年末年始は休みの商業施設が多いので、館内は娯楽を求めにやってきた家族連れで溢れ返っている。
ブランクのある飼育員達が入社たったの一週間で、飼育しているアイドル候補である海の仲間たちと呼吸を合わせて人前に出るのはいかがなものかと海里やベテラン従業員は難色を示していた。
碧が退職した後に入社した若い従業員が率先して手を上げたため、現在試験的に真央が提案したペンギンやイルカのショーが開催されている。
(一発目がはじめて来場した家族連れはちょっとハードル高いよなぁ……)
原則、長期休みを利用して水族館に姿を見せる家族連れは、長期休みを利用してしか水族館にやってこない。年に1度か2度来てくれたらいい方で、数年越しのリピーター狙いとならざるを得ない。