水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 ペンギンやイルカ、新人飼育員の成長を毎日見守るような来場客はそもそも混むとわかっている長期休みは姿を見せないので、お客さんが全く興味を示さない可能性も危惧していたのだが――どうやら、杞憂だったようだ。



「頑張れ!もう少しだ!」

「イルカさん頑張ってー!」

「小さな子どもたちが応援してくれてとぃるぞ!」



 子どもたちの声援を力にして。

 イルカは飼育員が投げたボールを頭に乗せてポーズを取った。

 あちらこちらで拍手が起き、イルカにはご褒美の餌が与えられる。



「ありがとうございましたー!」



 飼育員がイルカを連れて舞台裏に引っ込めば、家族連れは「楽しかったね」「イルカさん可愛かった」「私もイルカさんが欲しい!」と、口々に話し合い消えていく。盛況のようで、言い出しっぺの真央も鼻が高い。



 イルカやペンギンのぬいぐるみは余りがちだったが、このゲリラショーをきっかけにしてみるみるうちに在庫が履けていく。

 ウミガメのウミちゃんと並ぶほどの勢いで売れていくぬいぐるみ達を、真央は最愛と協力して売り捌いて行った。



「なんか最近ヤバいっすね」

「そうだね、忙しくて仕方ないよ」

「バイトを追加で雇ってなかったら、ヤバかった……」

「これも資金繰りの目処が立ったお陰だね」



 里海水族館は、従業員の数を大幅に増員していた。飼育員は全員正社員として雇い、人手不足に悩んでいた里海水族館の運営スタッフはアルバイトを雇う。

 マーメイドスイミングの公演は相変わらずマーメイドスイミング協会から派遣……出向の形で金銭が支払われていたが、正式に海里水族館のマーメイドとして働きたいと手を上げる新人マーメイド達も出始めた。



 マーメイドスイミング協会に所属していて、資格を持つ選ばれしマーメイドが8人抜けたとしても、今後の公演開催は問題なさそうだ。

 後はトラブルなく順調に来場者や売上を増やしていけば、借金返済は夢のような話でなくなる。



(やっとここまで来たんだ)



 海里から預かったピアスを耳につけ直した真央は、残業をしながら残りの借金総額をじっと見つめた。

 赤字の数が日に日に減っていくのを見るのが、毎日楽しみになりつつある。

 真冬でもマーメイドスイミングの公演は順調で、半年先まで全席予約で完売していた。

< 110 / 148 >

この作品をシェア

pagetop